建設人材の確保・育成

職業訓練法人近畿建設技能研修協会により管理・運営されている三田建設技能研修センターでは、昭和57年の設置・開設以来、建設人材の確保・育成のため、各種講習を実施しています。「人材確保」では、単に新規確保だけではなく、確保し続けるといった視点も重要と考えています。また「人材育成」では、建設技術者・技能者の入職後の技能向上・資格取得に向け各種技能講習、専門研修及び資格取得対策講習等を行っていくこととしています。今年度の事業推進に当たっては以下の方針のもと、建設人材の確保・育成に引き続き取り組んでまいります。

令和5年度 事業推進基本方針

ものづくり(建設業)は人づくり

職業訓練法人近畿建設技能研修協会(以下、協会)は1982年(昭和57年)7月に、建設労働者の技能の向上と雇用の安定を目的に職業訓練を行うために設立され、昨年(2022年(令和4年))、設立40周年を迎えた。その間、協会が運営する「三田建設技能研修センター(以下、研修センター)」から、約8万人の修了生を全国の建設現場に送り出している。 また、建設技能者の高齢化、担い手不足など、建設産業を取り巻く社会経済状況の変化に対応した研修も職業訓練と並行して適宜実施してきた。 令和2年度、コロナ禍により2000人を割り込んだ修了生も徐々に回復しつつある中、令和5年度は設立50年、60年に向けた新たなスタートを切る年度と位置づけ、設立時の目的(理念)である、「建設技能者の育成」を堅実に進めるとともに、「建設人材の確保・育成」などの新たな課題への解決に向けた取り組みにも挑戦していく。 具体には、「ものづくり(建設業)は人づくり」の理念の下、以下の事業に取り組む。

1 認定職業訓練等の確実な実施

建設労働者の育成とその職業生活の安全及び社会的地位の向上を目的に、職業能力開発促進法に定める基準に合致し兵庫県知事より認定を受けた職業訓練等を確実に実施する。

2 建設産業への入職促進並びに離職防止・定着促進への取り組み

建設業に入職後、一定の在職年次に相応しいステップアップのための定期的な講習を実施することで、例えば、「入職10年後にはこのような技能・技術、並びに資格が取得できる」というキャリアパスを示すことができる。このことは、入社希望者並びに入社希望者に当該企業を推薦する立場の高校等にとって、安心材料となると考えられる。企業の新規入職者の確保と入職後の離職防止・定着促進並びに入職者の保護者・学校関係者等が安心して建設産業に人材を送り出せるよう、入職前後の各段階に応じた以下の取り組みを行う。  

(1) 建設労働者育成支援事業の講習受託

標記事業は建設産業への入職に繋げるため、平成27年度から令和元年度までの5年間、厚生労働省施策として実施された「建設労働者緊急育成支援事業」の後継事業として、令和2年度から令和4年度までの3年間、包括受託者である建設業振興基金の地方拠点である兵庫県建設業協会からの受託事業として、通算8年間で45コース、378名の無職・無業者等を研修センターに受け入れて建設現場で必要な技能講習を実施してきた。 標記事業は令和4年度で終える予定であったが、建設産業界からの事業継続要望を反映し、令和5年度から2年間の時限措置として事業継続が認められた。このため、建設業への入職促進に繋がる講習内容を設定するなど講習受託者としての取り組みを引き続き実施する。 DSC06182 DSC_4965 DSC05084

(2) 社会人基礎研修の実施

標記研修は、西日本建設業保証株式会社の業務エリアの各県建設業協会会員企業の内定者及び新規入職者を対象に、社会人としての基礎的素養を身につけるとともに、建設業に対する理解を深める研修で、研修期間を通して同業種で働くこととなる若者同士がSNS等のツールを通じて情報交換することで、入社時の不安解消と入職後の定着に繋がることも期待できる。令和5年度も、4月1日の入職日を挟んで計10回実施する。

(3) 建設業入職者長期研修の実施

標記研修は、在学時に建設系の学習機会のない、普通科高校や文系学部修了者の新入社員を主な対象に、建設系の素養がない入職者でも基礎的なことが学べるよう、令和元年度から令和4年度まで、通年で24日間、土木、建築の2コースを設定して実施してきた。 令和5年度は、過去4年の研修参加企業等に行ったアンケートやヒアリング結果を踏まえ、類似した研修科目を統合し、研修を年度上期に終了するよう研修期間を設定して実施するとともに、今後もより良い研修に向けた検討を行う。

(4) 若手技術者実務研修、リカレント(学び直し)研修の実施

主に入職3年目までの技術者を対象に、実例に基づく模擬演習等により技術者としての基礎的な実務能力を体系的に習得する「若手技術者実務研修」を土木、建築の2コースで実施する。 また、入職3~5年目の技術者を対象に、既存のスキルを高め、新しいスキルを身に着け、将来の幹部候補生としての人材力強化等の組織マネジメント等を学ぶ「リカレント(いわゆる学び直し)研修」を実施する。

3 オーダーメイド研修の拡充

特定企業からの要請に応じる形で、当該企業が当該企業及び傘下企業等を集約しての講習委託に応じる。受託にあたっては、時期、内容等について事前協議を十分に行い、当該企業の意向を踏まえたものとして講習の充実を図り、継続開催に繋げる。

4 ケーブルクレーンの操作者講習

砂防工事や治山工事においては資材等の搬入にケーブルクレーンの設置、操作が不可欠であるが、ケーブルクレーン操作者の確保が容易ではないことから、国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所、兵庫県等からの要請を踏まえ、令和2年度より令和4年度まで、クレーン運転業務(つり上げ荷重5t未満)特別教育修了者を対象としてケーブルクレーン操作技能の習熟のための講習を実施してきた。 令和5年度は過去3年の参加者のアンケート結果等を踏まえ、関係機関と実施要否を協議の上、継続開催「要」の場合、関係機関と調整の上継続実施する。

5 オンラインセミナーの実施に向けた取組

新型コロナ感染症拡大防止の一環として、令和2年にZOOMを使用し、当協会会員企業の人事担当、総務担当、管理者向けの建設業におけるWebツール活用のセミナーを試行した。令和3年度は、この講習手法に馴染む講習の選択や実施方法等について検討を行い、令和4年度は、社会人基礎研修等で一部配信し、本活用に向けた検討を行った。令和5年度は具体の実施に向け、通信環境の確認と充実、並びに遠隔地の講師による講習実施の検討を行う。

6 行政職員への研修実施

協会・研修センターでは民間事業所で勤務する者への技能講習、資格取得支援に取り組んできたが、平成27年度、兵庫県及び県下市町の土木職の職員を対象に「1級土木施工管理技士試験対策講習」を行った。平成30年度から令和4年度までは、兵庫県の入庁年の浅い総合土木職の職員を対象に、工事監理研修として、施工計画書のチェックポイント、仮設計画、重機計画等の講習や型枠、鉄筋組立の実技研修を行ってきた。 特に令和4年度は、県側と協議の上、工事の受注者の視点から、工事を施工するために必要な関係機関との協議を着工前に終えておくことや、支障なく工事施工が出来るよう設計を行うことは発注者の責務であり、それらが十分になされないままに発注されると工事が一時中断され、その結果工期が延びて受注者の経費も増え、併せて技術者の効率的稼働の妨げにもなり、企業経営にも影響が出かねないこととなるという視点についても県の行政職員に認識してもらえるよう講習内容に組み入れた研修を行った。 令和5年度も兵庫県から要請があれば、総合土木職に加え、建築職の研修要請にも対応する。

7 建設産業担い手確保に係る各種会議への参画と支援

建設産業担い手確保に係る以下に掲げる各種会議に参画するとともに、建設業界からの要請に応じ、研修センター職員の派遣や機材提供などの支援を行う。 (1) 兵庫県建設業育成魅力アップ協議会 (2) 兵庫県建設産業団体連合会 (3) 兵庫県建設産業人材確保推進連絡協議会 (4) 建設雇用改善推進対策会議 (5) 全国建設関係訓練校等連絡会議

8 就業体験継続実施と出前講座実施支援

「兵庫県建設業育成魅力アップ協議会」のアクションプログラムとして、平成26年度から平成29年度までは県内の工業高校等への出前講座を、平成30年度からは当センター実習場での就業体験学習を実施してきた。令和5年度もより効果的・効率的な講習となるよう検討して行い、より多くの工業高校生の建設産業への入職促進に繋げる。 また、従来から実施している大阪建設業協会、奈良県建設業協会からの委託事業である工業高校生の就業体験を継続して行うとともに、協会の団体会員である他府県の建設業協会にも就業体験の実施を働きかける。 さらに、令和2年度以降コロナ禍で中止となっている広島県と広島県建設工業協会からの依頼による、広島県内の工業高校生を対象とした、土木・建築の2級施工管理技術検定の学科試験の試験直前対策講習への講師派遣についても、入職促進に繋がることから、依頼があれば積極的に対応していく。

9 建設分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入への対応

デジタル技術の進展に伴い、建設分野においても情報の有効活用、設計の最適化、施工の効率化・高度化、維持管理の効率化・高度化を目的として、ICT施工やBIM/CIM等の導入が図られてきている。研修センターでは令和元年9月に、ICT土工現場見学会・講習会を開催し、その後も、「リカレント研修」や「建設のCPDSセミナー」において、BIM/CIMモデルの作成と活用、ICT工事の設計データ作成と活用等の講習を行ってきた。 加えて、令和5年度に国発注の小規模構造物を除くすべての詳細設計・工事で「CIM」が原則適用(発注者が明確にした活用目的に基づき、受注者が3次元モデルを作成・活用する)となることから、令和5年1月20日に、近畿地方整備局から国の方針、兵庫県から県の取り組み、県内の企業による先進事例の紹介する「DXキックオフセミナー」を開催した。 令和5年度はこれらの講習を継続しながら、「BIM」についても現状把握に努め、講習開催を検討する。

10 長時間労働削減への支援検討

令和6年4月、時間外労働の罰則付き上限規制が建設業に適用される。慢性的な長時間労働にある現場技術者の働き方を改善する有効な方策として、工事書類の作成業務を本・支店(以下、バックオフィス)で支援する「建設ディレクター」に関心が寄せられている。ある調査によると、「現場技術者の全業務のうち、実質的な現場業務を除いた書類業務の割合は6割で、そのうちのさらに6割がバックオフィスに引き渡せる可能性が高い」との結果も示されている。 建設現場の長時間労働の是正に向け、現場で働く建設技術者の働き方改革の一助として、「建設ディレクター」育成講習の開催を検討する。

11 施設の老朽化対策と担い手確保推進に寄与する施設整備の検討

研修センターの本館及び実習場の各施設は、施設稼働から40年、大規模補修から12年が経過し、各所で劣化が進行している。 また、近年、建設産業への女性進出が進む中、研修センター本館の女性トイレは2ブースしかなく、「社会人基礎研修」、「建設業入職者長期研修」などでは毎回女性研修生から「女性トイレの増設要望」が寄せられている。 加えて、コロナ禍以降、遠隔地からのWEB研修など研修手法も多様化していることから、研修実施に支障が出ないよう各施設を健全な状態に維持するとともに、今後の建設産業界への女性進出に備えた施設整備を検討する。

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